ステムベアリングをアンギュラ玉ベアリングに交換
ベアリングの抜き取りと打ち込みを工夫する


このページはブログ管理人がスズキGSF1200Sに乗っていた当時に行ったメンテナンスのうち、現在は廃止されたジオシティーズホームページにUPしたものから再録のご要望が多い記事を再構成したものです。



GSF1200Sでは2回のステムベアリング交換をしましたが、この記事はそのうちの2回目・・走行7万キロの時に行ったものです。1回目は距離的にちょうど半分の3万5千キロ時にステムベアリングの交換をして今まで問題なく来たのですが、最近カーブを曲がる時、バイクに曲がり始めのきっかけを与えてからリーンが終わるまでの動きに、微妙な緩慢さを感じる事が多くなりました

もちろんタイヤの真ん中べりが進み、所定リーン角に至る過渡特性全般が緩慢になってきていることがあるのでしょうが、こういう時に一番怪しまれるステムベアリングの給脂もしばらくしてません ( ぉぃ )  ベアリングそのものも、前回交換時と同じ距離だけ乗ったので 「スズキで製造時、ベアリングにほとんどグリスが塗られていない場合と、自分でメンテしてした場合、どのぐらい違うか? 」 という事にも興味があります 
また、以前から純正であるニードルローラーよりも軽い動作が期待できるアンギュラボールベアリングの導入を考えていましたので、ここは冬場メンテの一環としてステムベアリングの交換をしてみることにしました

前振りが長くて申し訳ないのですが、もう少しだけ・・ 実際にステムベアリング交換を手掛けられた方はよくおわかりだと思いますが、この作業はステムシャフトから古いベアリングを外したり、新しいベアリングを打ち込んだりする時、大きなマイナスドライバーで古いベアリングをこじったりハンマーで叩いたりと、チカラ技の連続で全然オシャレじゃありません ( 笑 ) 今回はそのあたりも改善しようと、作業方法をいくらか見直してみましたので、そのあたりが多少とも参考になりましたら幸いです。

さて、実際に替えて走ってみるまで予想すらしなかった 「 組立と試乗の怪 」 は、記事の後半であきらかになります (^^ ;


■ まずはボールベアリングの調達



冒頭にも記した通り、今回の交換はアンギュラボールベアリングに交換ということで、まず使うベアリングを選びます 
いちばん手っ取り早くて間違いがないのは 「 初期型車 = ボールベアング 量産型 = GSF/Banと同じニードルローラーベアリングに変更」 という変遷をたどったGS1200SSの初期型車用ベアリングを注文することですが、それではヒネリが足りません ( 笑 ) そこで、掲示板で識者から情報をいただいたところ、なんとBandit1200でもSK2型 ( スピードメーター表示が260km/hになっていないモデル) までのステムベアリングは、GS1200初期型とまったく同じアンギュラボールベアリングを使っていたことが判明しました ( ! )
ほかにも、ノンカウルワークス色Bandit1200 ( ZK5型 ) のステムベアリングには、アンダーブラケット側ベアリングにニードルローラー、トップブリッジ側にアンギュラ玉ベアリングが使われているなど、2タイプのベアリングを混用している例も見受けらます ( 驚 )
識者の皆さまからいただいた情報は当サイトのFAQにも記していますので、そのあたりを検討される方は参考になさって下さい

ちなみに、GSF/Banditはもとより、イナズマやR1100,R750などにも使われているニードルローラーベアリングは、スズキ車の場合NTN製が採用されていますが、BanditのSK2までやGS1200の初期型に使われているアンギュラボールベアリングは光洋精工製でした




購入したアンギュラボールベアリングの下用ベアリングにある打刻を見ると、上の通りメーカー型番は 「 SAC3055-1」 というようです GSF用のニードルローラーベアリングは上下とも規格サイズで、純正部品としてでなくても、ベアリング取扱業者で同等品が購入出来ますが、アンギュラボールベアリングの方はベアリングメーカーのWEBカタログを見てもバイク用の特別仕様のようで、規格品が見つかりませんでした  なぜNTN製が多数派となっているなか、これだけを光洋精工に発注するのかよくわかりませんが、たぶんいろんな業者から相見積もりを取ってみて、一番安く出してきたのが光洋精工だったとか、おおかたそんなところではないかと思います ( 笑 )


■ 交換作業を開始する

メンテマニアの皆さまには長らくお待たせいたしました、ようやく作業にかかります 



基本的に、ステムベアリングの交換作業はタンクを外さなくても出来るのですが、そのまま進めると100%の確率で工具が 「 ガコンッ、ガコンッ 」 とタンクに当ります スチロールのシート等で養生さえしておけばキズが付くことはないのですが、工具がタンクに当って音をたてるたびにブルーな気分になりますので ( 笑 ) ここは上の画像のようにタンクを外して作業されることをお勧めいたします




さて、ここで前輪やフロントフォークを外してしまいます もう少しあとでもいいのですが、私はだいたいこの手順で進めています




準備作業も終わって、いよいよ本工程に着手、、トップブリッジを外すため、トップブリッジに固定されているメーターを外します 矢印のボルトと、反対側にもう一本あります ( 矢印のボルトの左に見えるボルトはハンドルポストを固定するもの、今回は触らない )




ボルト2本を抜くとメーターとインジケーターパネルが外れます もっともケーブルや配線があって別の場所へ持って行くことが出来ませんので、前のほうへ寄せておきます




ハンドルをハンドルホルダーから外して、前方に傾けて仮置きし ( ブレーキ液の漏れに注意 ! ) 30mmのトップナットを外すとトップブリッジが外れます




ステムナット ( ひとつ上の画像で円盤状に見えるもの ) を外してステムベアリングとステムシャフトを外したところ 上の画像と絵ズラ的に変化がありませんね ( 笑 )  なお、メインスイッチの配線が付いた状態でも、コードに余裕があるのでトップブリッジはこの画像の位置ぐらいまで動かせます




ここで前回交換から35,000km走行したベアリングの状況を改めて確認します 画像は車体の下へもぐってステアリングヘッド部に打ち込まれている下ベアリングの外輪を見たところ 
やはり圧痕は出来ていますが、1回目に交換したベアリングよりかなりマシです 1回目に交換したもの ( つまり新車から付いているもの ) も約35,000km使ったわけですが、これは工場組立時にほとんどグリスが塗られていないため、ほぼ同じ使用距離でも相当にひどい状態でした ただし、こちらもコロが当らない部分に若干サビがみられます




ステアリングヘッドの上のほうからバールの下ろしてきて、バールの先端を下ベアリングの外輪に引っ掛けハンマーで叩いて抜きます ステムベアリング交換を扱ったサイトをみると、このあたりは治具を作ったりして皆さん工夫なさっているようですね  なお、使用したバールの形状や長さについては、前回交換時の記事をご参照下さい




ひとつ上の画像にある外輪とペアを組む下ニードルローラー部の状況 途中で1度モリブデングリスを給脂していますので、グリスの残り具合は良好です 1回目に交換したベアリング ( 新車時から付いていた物 ) はグリスがほとんど塗られておらず、交換時には段差が出来てスムーズに回転しないなど、走行は今回と同じ35,000kmでも悲惨な状況でしたから、ベアリングの潤滑がいかに大事かというのがよくわかりました




さて、いよいよこの作業のメインイベントの一つ…下ベアリングをステムシャフトから抜き取ります 
マニュアルでは 「 先の尖った工具でコジって外せ 」 とだけ書いてあったりして、極めてとっつきにくい作業なのですが、今回はこじったり押したりは一切せず、ハンマーとタガネだけで抜いてみることにします スタイル的には地面に金床を置いてステムシャフトを逆にして乗せ、それを左ヒザで支える、という形です




いきなり登場した線路の画像… 当家では金床として電車のレールを使っています これは私の父 ( 故人 ) が工作用にどこかでもらってきたもので、実家にあったものを最近持ってきました 長さは30cmほどなのてすが、電車が踏んづけて走っていた本物の線路だけあって品質は申し分なく ( 笑 ) 金床にはオーバークオリティなぐらいです




さて、事前に大型のマイナスドライバーなどでこじらず、叩くだけで下ベアリングを抜くわけですが、その時タガネを当てる位置が重要になります ステムシャフトをさかさまにしてベアリングを下から見ると、ダストカバーの内側にベアリングの内輪がわずかに見えます ここを狙ってたたきます なお、タガネは全長17cmぐらいの、ごく普通のものを使用しました




タガネの先を当てて照準を定めたところ ( 笑 )  アンダーブラケットの形状からして、この1ヶ所しか叩けないのですが、ベアリングはシャフトにキッチリ入っているので斜めになるということはありません ただし、抜ける寸前では叩いている側だけが前に出て傾いてきますので、反対側も軽く叩いてみて下さい




特に問題がなければ、様子を見ながらゆっくり叩いて約7分でベアリングが抜けました たたく衝撃でベアリングのニードルがキャリアーから外れてバラバラになりますが、もとより再使用しませんので気にせずどんどん進めます 
ちなみに、キレイに抜ければ上の画像にあるダストシールにまったくキズが付かず外せますので再使用が可能です




タガネの側面はステムシャフトに沿って動くので、いくら気を付けてもステムシャフトのベアリング圧入部に細かいこすれキズ ( 矢印の部分 ) が付くのですが、アマチュア整備ですからそんなことは全然気にしません この程度のこすれキズなら、ベアリングを抜いてから目の細かいヤスリでサッと修整しておかれるといいでしょう

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ステムベアリングをアンギュラボールベアリングに (1) Ts-Net